「脳 VS AI」
~脳は何を語るのか~

執筆:営業統括 西山 正人

【脳と悩み】

 誰もが仕事のこと、家庭のこと、人間関係のことなど日々悩みは尽きないのではないでしょうか。悩むだけならともかく、それがストレスになったり体調不良を招いたりと、「悩む」こと自体に良いイメージは持ちにくいと思います。私は、なんとなく「脳」や「遺伝子」の理解を深めることが、悩みの突破術になるのではないかと考え、関連書を読んだりしていました。
 その結果、例えば「脳は決断した後から理屈をつける」や「遺伝子は自分を増やすための選択をしている」といった認識に触れ、考える前に決定する自我の存在を意識することで、悩むこと自体を客観視し、ストレスが軽減できたように思います。
 今回は特に「脳」と「AI」をテーマに、「考えること」を少し探索してみたいと思います。

【人類の系譜】

 我々ホモ・サピエンスはおよそ30万年前にアフリカで誕生し世界に拡散しましたが、同時期には絶滅したネアンデルタール人(主にヨーロッパ・西アジア)やデニソワ人(主にシベリア・東アジア)も存在していました。脳の大きさではホモ・サピエンスは必ずしも最大ではありませんが、前頭葉皮質の発達が顕著で、言語能力、抽象的思考、創造性、社会的協力能力に優れていたと考えられています。その結果、大規模な社会を築き、複雑な言語や多様な道具を駆使して生き延びることができたのです。つまり、厳しい自然環境下で「脳力」によって他種との生存競争に打ち勝ったと言えます。
 余談ですが、ホモ・サピエンスのゲノムにはネアンデルタール人やデニソワ人との交雑によるDNAが一部残っており、免疫系の強化や高地への適応(チベットなど)、皮膚・毛髪の特性などが継承された例が知られています。もちろんデメリットもあるようですが、こうした継承に歴史の壮大なドラマを感じます。
 また脳は体重の約2%の重さでありながら、エネルギー消費量の約20%を使用するとされます。脳には多くのエネルギー供給(食料取得)が必要になるため、頭脳を取るかエネルギー効率を取るかという戦略が他の生物との生存競争の中で繰り広げられてきました。

 一方で、約1万年前からホモ・サピエンスの脳はおよそ10%縮小しています。これはエネルギー効率を高めるために脳の構造や神経回路の効率化が進んだ結果であり、広義の「進化」といえます。
 このような「脳」と「エネルギー」の関係は、AIの電力消費の課題を連想させます。Gartnerの発表によれば、” 2025年には、AI最適化サーバーがデータセンター全体の電力使用量の21%を占め、2030年には44%に達すると予測されています。”* つまり、地球規模で頭脳に進化していくAIには膨大なエネルギーが注ぎ込まれることになります(また、”世界のデータセンターの電力消費量が2025年の448テラワット時(TWh) から2030年には980TWhに増加すると予測。”* この規模は現在の日本の年間総発電量にほぼ匹敵します)。

*出典: Gartner®, Press Release, 2025年11月19日,
“Gartner、データセンターの電力需要は2025年に16%増加し、2030年までに2倍になるとの予測を発表”

 人類が脳の省エネ化を進めたように、AIにも省エネ化の進化が求められるでしょう。

【脳の不思議、人の不思議】

 我々が得る情報の多くは視覚情報です。視覚センサーである網膜について、よく語られる話があります。網膜の中心部(黄斑)は色を識別するが、周辺部は主に明暗を捉えるため、周辺視野の色情報は乏しい。つまり周辺の情報については、脳が補完して色を付けている、というものです。車で高速走行していると周辺の映像がぼやけて色が感じにくくなるのは、脳の処理能力や視覚の特性によるものだと説明されると納得できます。
 しかし、目で見たものが全て「真実」かというと疑念が湧きます。生成AIが自由に画像を生成したり差し替えたり色を付けたりする能力を目の当たりにすると、映像データが事実の証拠になり得るのか、脳が見たもの・記憶したものはどこまで信頼できるのか、といった疑問が生じます(人は見たいように見て、覚えたいように覚えているのではないか、という疑念です)。

またご存じの通り、脳にはドーパミンなどによる報酬システムがあり、実体験に結びついた「快感」や「喜び」が、特定の行動を繰り返させたり、新しい行動や努力に導いたりします。AIは脳のような主観的体験や意識を持って感じることはできません。実体験に基づく価値付け──ここが脳とAIの決定的な違いなのかもしれません。

【AIの価値、人の価値】

 AIの基礎には脳の模倣(ニューラルネットワーク)があり、大量のビッグデータの学習によって近年驚くべき進化を遂げています。大規模言語モデル(LLM)は「次の単語を予測するだけ」に過ぎない、という説明がありますが、本来知能とは予測能力であり、人類も予測能力を高めることで生存確率を上げてきた面があります。ただし、進化したAIの価値基盤は、人間が与えたデータや目的に依存しています。
 例えば囲碁やポーカーの勝負においてAIが人間を凌駕しているのは人間が作ったルールや環境があるからです。しかし、頂点を目指すAI同士の戦いを誰も見たがらないのは、人間より速く走るロボットの100メートル競走を見たいと思わないのと似ています。つまり、いかに優秀でもAIの価値を決めるのは最終的には人間なのです。
 現在の課題は、AIが素晴らしい結果を出しても「なぜ」そうなのかを人間が理解できなければ評価・利用が難しいことかもしれません。例えばAIが難病の治療法を見つけたとしても、なぜ効くのかが説明できなければ実用化や承認に障壁があるでしょう。
 しかし、「説明できないが結果を出すAI」と「説明を重視する科学」は、技術的・社会的圧力により遠からず妥協点を見出すのではないかと考えます。なぜならば、技術の進化に比べて人類という種としての適応や制度の進化が遅れ、さまざまな社会課題や環境課題に対応できなくなっているためです。
人類とAIの協働は、そうした課題を克服し次のステージにつながる可能性があります。

 モデルケースとして挙げたいのは、TVドラマ「スタートレック(宇宙大作戦)」におけるカーク艦長とスポックの関係です。カーク艦長は直観や感情、情熱、勇気を体現する人類代表であり、スポック(バルカン人)は論理や理性、客観性、冷静さ、事実重視を体現します。スポックは参謀としてサポートし、カークは最終的に決断を下す――この相互補完は理想的なパートナー像として示唆的です。

【おわりに〜脳のやるべきこと】

 ホモ・サピエンスが築き上げた社会は大きな転換期にあるのかもしれません。「現在の小学生の65%が将来、現在存在しない仕事に就く」といった観測もあります。
 未来が見えにくい中で、情報流通を握る強大なプラットフォーマーによるフィルターバブルやエコーチェンバー、情報の真偽や信頼性、発言力・影響力の不均衡といった課題が大きくなっています。情報過多社会におけるAIの活用は希望であると同時に悪用のリスクも指摘されています。
 脳(人間)はAIとの共創のなかで、自分たちにとって何が大事かを改めて認知し、その価値観に基づいてAIに向き合う必要があるのではないでしょうか。それは根源的な“倫理観、信頼、楽しさ、愛、好奇心、友情、正義”などであり、これらの価値は実体験や感情を通じて時間をかけて獲得してきたものです。これらの価値観をAIに丸ごと委ねるべきではないと考えます。
 繁栄とは、怠惰に流されることなく、絶え間ない創意工夫によって築き上げられるものです。AIと脳との共創が次のステージを切り拓き、時間の壁を越えて人類を未知の世界へと導く「光り輝く進化」になることを願っています。
「長寿と繁栄を(Live long and prosper)🖖」

  • スタートレックはシービーエス ステューディオズ インコーポレーテッドの登録商標です。
  • GARTNERは、Gartner Inc.または関連会社の米国およびその他の国における登録商標およびサービスマークであり、同社の許可に基づいて使用しています。All rights reserved.

メールマガジン
「BizConnect」ご案内

メールマガジン「BizConnect」は、最新トレンド、新製品・サービスなど広いテーマ情報をお届けします。
きっとお客様の仕事の質の向上に繋がる気づきがありますので、ぜひご登録ください。

  • オンライン/オフラインのイベントやセミナーの開催情報をいち早くご案内いたします。

  • 製品・サービスのご紹介や、新製品のリリース案内、キャンペーン情報などをご案内いたします。

  • 市場トレンドや、業務改善のポイントなど、今知っておきたい情報をお届けします。
    ひと息つけるコンテンツも!