「倉敷紀行」
~名画とジーンズと私~

執筆:営業統括 西山 正人

【倉敷美観地区を歩く】

 今回は、岡山県倉敷市にある美観地区と児島を歩いた旅紀行です。

 倉敷市一帯はかつて「吉備の穴海」と呼ばれる海域で、大小の島が点在していたそうです。江戸時代の大規模な干拓により現在の陸地が形成されましたが、塩分が多く米作りに向かなかったため、綿花栽培が盛んになりました。明治時代には倉敷紡績所(現在のクラボウ)が設立され、近代的な紡績工場の稼働によって「繊維のまち」として発展してきました。

 現在は、倉敷紡績所の旧本社工場を再開発した複合施設「倉敷アイビースクエア」、日本初の私立近代西洋美術館である「大原美術館」を中心とした「美観地区」が観光名所になっています。中心を倉敷川が流れ、その両岸には白壁の町家や土蔵が立ち並び、柳や、桜(河津桜)が季節ごとに彩りを添えます。

 今回は秋に訪れましたが、美観地区全体を彩るカエデやアイビースクエアの蔦が美しく色づき、思わず見入ってしまいました。また、大原本邸(旧大原家住宅)は、2018年から「語らい座大原本邸」として一般公開されており、蔵書を並べたブックカフェや美しい庭を望む離れ座敷などゆったりと時間の流れる空間が心地よく、お勧めのスポットです。

アイビースクエア

大原本邸

【絵画鑑賞と働き方改革】

 大原美術館は倉敷紡績所の社長を務めた実業家・大原孫三郎が私財を投じて設立しました。「日本の人々に本物の西洋画を見せる」という高邁な思想のもと、孫三郎氏がその才能を認め支援をしていた洋画家の児島虎次郎が10年の月日をかけて収集した絵画をベースに、虎次郎氏の没後1930年に開館しました。

 特に大原美術館の西洋画コレクションは、バロック期から、印象派、ポスト印象派を経てエコールド・パリや抽象絵画に至るまでの近代西洋美術の逸品が集められており、単に有名な画家の作品を並べたのではなく、それぞれの画家の画業における重要な時期や様式を代表する一級の作品が収集されています。不思議に思ったのが、多様な収集でありながら全体に流れる統一感がある点で、それは児島虎次郎という一人の画家の審美眼によって集められたストーリーがあるからのように感じられました。

 さて、大原美術館の顔といえば、盛期ルネサンスの後マニエリスム様式の「受胎告知」(エル・グレコ作)だと思います。ルネサンス期の人間的で写実的な描写から、宗教改革の影響を受けた転換期を反映しているのか、信仰心に訴えかける不思議な雰囲気を漂わせていました(エル・グレコは対抗宗教改革側に影響を受けた作家と評されることが多い)。私が今回もっとも気に入ったのはセザンヌの「風景」です。彼はポスト印象派であり、「自然を円錐、球、円筒によって扱う」と述べたと伝えられますが、私はただ、この絵の落ち着いた雰囲気が好きで、“家に飾りたい!”と思いました。

 意外だったのが、児島虎次郎の作品です。さまざまなタッチの絵があり、それは新しい表現を追求し続けた結果です。コレクション収集の経験が作風に多様な要素をもたらしたようです。私は特に「酒津風景」など明るいタッチの絵に魅せられ、とても魅力的な画家だと思いました(児島虎次郎記念館は今年移転オープン)。

 話は変わりますが、レオナルド・ダ・ヴィンチの作品「最後の晩餐」と「モナ・リザ」、前者は世界遺産に登録されていますが、後者は認定されていません。その理由を一言で言えば、前者は壁画などの「不動産」的な作品、後者は移動可能な絵画という「動産」的な作品だからです。もともと多くの絵画は教会や王宮等に描かれる「不動産」でしたが、移動できる「動産」化が進んだのがルネサンス中期に発明された「キャンバス」によるものです。キャンバスの普及により画家は現場まで行く必要がなくなり、自宅や工房で製作できるようになりました。ある意味でリモートワークのツールになったとも言えます。今回の様に美術館で絵画を鑑賞できるのも、また、さまざまなモチーフの絵が誕生したのも、この「動産」化のおかげと言えます。

 私は印象派の作品が好きです。産業革命による絵の具のチューブ化(戸外制作を可能にしたこと)、鉄道網の発達(移動の容易化)、写真技術の発明(絵画の役割の変化)などが印象派の誕生に影響を与えたとされています。絵画の世界も技術の進化と無縁ではないと改めて実感しました。

大原美術館

【児島ジーンズストリートを歩く】倉敷市児島地区

 なぜ児島地区が日本のジーンズ発祥の地区となったのか。冒頭記載の通り、繊維の街としての発展から、明治・大正・昭和を通じて「学生服」産業の三大産地(倉敷市、岡山県玉野市、福岡市早良区)の一つとなりました。しかし、昭和中期、学生服の素材が綿から安価な合成繊維と切替わる中で、綿織物や縫製に関する経験と技術が活かせる「ジーンズ」に活路を見出しました。

 現在では、生地の染色、織り、縫製、加工といった全工程を地域内で完結できる体制が整い、その高い技術力は世界的に「ジャパンデニム」として高く評価されています。

 児島地区にはジーンズストリートを中心に約40軒のジーンズメーカーやデニム関連製品の店が集まり、地区全体としては日本の国産ジーンズ生産の約40%を担う一大生産地となっています。

 私はこの歴史ある街でジーンズを買いたいと思ったのですが、いわゆる“買い物が苦手”で40軒もの中から気に入ったものを選んで買う自信はありませんでした。しかし、妻から“あなたにジーンズは似合わないから”と言い続けられてきたので、ここで似合うジーンズを買って一矢報いたい!という小さな野望を実現させたいと考えていました。

 過去の私にはなくて、今の私にあるもの、それは「生成AI」です。事情を相談すると、予算、デザイン、色、こだわり、買い物対応時間などのやり取りの結果、3軒に絞られ、行く順番、買い方まで指南されました。実際、あまりストレスなく買い物ができたことは、私にとって成長あるいは進化と言えるのかもしれません(結果、妻と娘に似合っていると言ってもらえたことは小さな勝利です)。

児島ジーンズストリート

【児島ジーンズストリート。番外編】

 番外編としてジーンズストリートにある「旧野崎家住宅」を訪ねました。江戸時代後期に瀬戸内海の干拓と塩田開発で莫大な財を成した「塩田王」野崎武左衛門によって築かれた建物です。訪問理由は、この住宅が私の愛読コミック「ミステリと言う勿れ」(田村由美著)の映画ロケ地になっているからです(映画の中では狩集家)。この約3000坪に及ぶ広大な敷地と歴史的佇まいを持つ建物群は、大河ドラマ「龍馬伝」や「八重の桜」、ドラマ版「犬神家の一族」などのロケ地にもなっています。

 「映画:ミステリと言う勿れ」では、広間や玄関、廊下、主人公(菅田将暉)が泊まる部屋などが、撮影に使われました。ほかに、群馬県甘楽郡の楽山園、神奈川県横浜市の三渓園などでもロケが実施されています。印象的な4つの蔵については、外観は千葉県我孫子市にある歴史的建造物・旧井上家住宅の蔵を基にしており、全部回るのは大変だと思いますが、今回、映画が身近に感じられ聖地巡礼をされる方の気持ちがわかったような気がしました。

 また、ドラマ版の第3話に出てくる「漂流郵便局」は過去・現在・未来への受取人のいない手紙、あるいは行先のない手紙を預かってくれる郵便局ですが、瀬戸内海に浮かぶ粟島(香川県詫間町の須田港よりアクセス)にあり、今回は訪問できませんでしたが、是非訪れてみたい場所です。

旧野崎家住宅

【旅のおわりに】

 今回の倉敷の旅は、景観・文化・買い物・食と、充実し、とても満足できました。もちろんそれは、倉敷の持つ観光地としてのポテンシャルの高さによるところが大きいですが、あまり時間のない中で「生成AI」が相棒になってくれたおかげで、楽に楽しく回れたと感じています。

 しかし、本来、旅の醍醐味は「ハプニング」にあり、それが期待を上回る体験をもたらすのではないかとも考え、生成AIに尋ねてみました。すると驚くことに、共感され「人との出会いを起こすハプニング」につながる活動提案が示されたのです。例えば「どこへ行くかわからないサイクリング」「体験型工房での創作体験」「地元の人が集う居酒屋紹介」「当日のイベント参加」など驚くほど多彩で具体的な提案でした。

 今回は時間がなく実際には試せなかったのですが、キーワードが「人との出会い」だったので、意識して地元の人との会話を増やした結果、旅の深み、楽しさが増し、一段上の旅ができたような気がしています。

 皆さんも生成AIを相棒に、ゆっくりと、そして少しだけ予測不能な旅を楽しんでみてはいかがでしょうか。

  • クラボウは倉敷紡績株式会社の登録商標です。
  • 語らい座大原本邸は公益財団法人有隣会の登録商標です。
  • 犬神家の一族は株式会社KADOKAWAの登録商標です。

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