「月・宇宙からのメッセージ」
~なぜ人類は宇宙を開拓するのか~
          2025年10月21日
執筆:営業統括 西山 正人
 
【神秘なる月】
 伊予原新氏の「月まで3キロ」という小説の中に、月と地球の引力の相互作用によって、月は毎年3.8cm、地球から遠ざかっているという話が出てきます。月ができた頃、月は現在の6倍ほど大きく見えたということにも驚きました。
                 世の中の多くのものは変化していくと思いながらも、時を司る「月」は、変わらないものに分類していたのかもしれません。毎日さまざまな表情を見せ、心に穏やかな落ち着きを与えてくれる「月」はとても大切な存在ですが、少しずつ遠く離れていくという現実に、何やら寂しさとともに一抹の不安も感じてしまいました。
                 遡ると神秘なる「月」は、1969年7月20日、アポロ11号が月面に着陸し、人類の足跡を残すことに成功した日から少し異なる存在になったような気がします。その中継映像は当時世界人口の1/5にあたる6億人が見ていたようですから、世界に与えたインパクトはかなり大きなものだったと思います。
                 私は、その翌年の大阪万博のアメリカ館で月の石を見てしまうことになったのですが「月」は、どこか神秘的な存在から、科学的興味の対象になったような気がします。
【アポロ計画とムーンショット】
 アポロ計画は、1961年から1972年の間アポロ17号まで実施され、全6回の有人月面着陸ミッションが実施され、計12人が月に降り立ち、約380kgの月の石を持ち帰りました。中には、映画にもなった「アポロ13号」のように失敗したミッションもありましたが、月の起源に関する「ジャイアントインパクト説」の補強や、有人宇宙飛行の基盤を築くとともに、コンピュータ技術の発展や、通信、航空電子工学などさまざまな技術の発展に寄与したと言われています。
                 また、近年ではアポロ計画のように、非常に高い目標を設定し、達成するために革新的技術やアイデアを追求するプロジェクトのことを「ムーンショット(MoonShot)」と呼ぶようになり、シリコンバレーなどのIT企業で盛んに実行されてきたそうです。日本では内閣府が「ムーンショット型研究開発制度」として、自然災害、超少子高齢化といった日本ならではの困難な課題解決を目指し、2050年までに実現する9つの目標(例:激甚化しつつある台風や豪雨を制御し極端風水害の脅威から解放された安全安心な社会を実現)を定めました。なんとなく閉塞感のある現代社会を変え、次のステージに導く「ナイスショット」を期待したいと思います。
【JAXAおよび日本科学未来館の見学体験】
 日本で一番「月」に近い存在、宇宙開発の中核的存在といえばJAXA(宇宙航空研究開発機構)です。「月」に近づくため筑波宇宙センターに行ってみたくなり、HPを見ると1日2回の見学ツアーがあり、申し込んで行くことにしました。
                 当日つくば駅からバスに乗り宇宙センターに到着すると、実物大のH2ロケットがドーンと鎮座していて圧倒されました。

JAXA 筑波宇宙センター 正面玄関
 ツアーは、宇宙飛行士養成エリアの見学や、国際宇宙ステーション(ISS)の「きぼう」日本実験棟の運用管制室見学などを含め、全工程70分です。何を隠そう、私は漫画「宇宙兄弟」の愛読者で、兄弟が幼いころ何度も通い夢を育んだ見学コースや、六太(兄)が最後は人間力で突破した宇宙飛行士選抜試験の対象施設を間近に見ることができて感無量でした。
                 センター内でも「宇宙兄弟」の絵が普通に露出されており、「宇宙兄弟」のしっかりとした取材に基づくリアルな表現を現実に見てJAXAとの絆を感じました。“本気の失敗には価値がある”“迷ったら楽しい方を選ぶ”など名言も数多く生み出されましたが、次回46巻が記念すべき最終巻となるようです。
                 あこがれの宇宙飛行士についてですが、直近では2021年12月に募集が開始され、応募者数は4,127名、2023年2月に候補者として2名が選出されました(お二人とも無事2024年の10月に宇宙飛行士に認定されました)。今回の選抜試験は13年ぶりに募集されたそうです。現在、日本の宇宙飛行士は7名、今後アルテミス計画と呼ばれる有人月探査計画が本格化する2030年頃は2人になってしまうリスクがあり、今後は5年に1度のペースで募集が行われるそうです。
                 見学ツアーの中では、選抜される宇宙飛行士の要件として、英語力やコミュニケーション能力が重要と説明されていました。ミッションを成功に導くため、周りの人と協調して進めていくための重要なスキルとのことで、歴代の日本の宇宙飛行士の顔を思い浮かべ大いに納得しました(誠実でコミュニケーション能力が高そうという意味です)。

JAXA 筑波宇宙センター 見学コース
 見学ツアーが終わり、展示館「スペースドーム」へ向かいました。実物大の各種人工衛星や、「きぼう」の実物大モデル、ロケットのエンジン、はやぶさ2号、管制技術等々思った以上に圧巻の展示を見て大変満足することができました。
                 先程記載のアルテミス計画は月面基地の設置や、火星探査への足掛かりを造るというミッションを持ち2017年トランプ大統領が署名し推進されています(日本も含め30ヵ国以上参加するプロジェクト)。月には、水やチタン、核融合の原資となるヘリウム-3等の貴重資源が存在する可能性があり、月の開拓も次へのステージが期待されているようです。

JAXA 筑波宇宙センター 展示館スペースドーム
 JAXA見学の興奮が冷めやらぬ中、日本科学未来館(東京・お台場)では2025年7月12日~9月28日の期間に特別展「深宇宙展~人類はどこへ向かうのか」To the Moon and Beyondが開催されていました。開発中の有人月面探査車(実物大模型)や「はやぶさ、はやぶさ2」が持ち帰った粒子、ピンポイント着陸を成功させたばかりの「小型月着陸実証機SLIM」、宇宙の謎にせまる大規模望遠鏡の模型など充実したラインナップでした。中でも私が最も驚いたのは、火星探査車が捉えた最新のデータを駆使して制作された大画面映像で体感する「火星ツアー」でした。過去には想像の世界で描かれていた風景が、圧倒的なリアル感で迫ってきました。現在、火星では米国、中国、UAE、インドなどが送り込んだ10機以上の探査機が活動しているそうですが、日本でも火星衛星探査計画「MMX」として、フォボス、ダイモスという衛星の観測とサンプル採取を目指し、何と来年度の探査機打ち上げを目指しているそうです(2031年地球帰還予定)。火星は想像以上に近い存在になっていました。
                 また、JAXA見学ツアーもそうでしたが、大変多くの子供たちが来場していました。今でも「宇宙」は子供たちの「夢」であり興味の対象なのだと実感し、特別講演で大人顔負けの質問をする子供たちには頼もしさを感じました。

有人月面探査車(実物大模型)

SLIM(1/2模型)
【地球の危機と宇宙開拓】
 宇宙開拓は夢と希望の象徴ですが、一方で気になるのは映画「アルマゲドン」や「ディープ・インパクト」「メテオ」にも出てくるような小惑星衝突の危機です。6600万年前、巨大流星が地球に降り、隕石衝突による冬を引き起こして恐竜等、地球上の生物種の76%が死に絶えたそうです。また、地層の解析から2600万年周期で地球生命絶滅危機の痕跡があることが示唆されたそうです。もともと太陽は二重星で、その伴星ネメシスが、2600万年周期で地球を脅かす存在であるのなら(ネメシス仮説)、恐怖となる前に壮大なるドラマを感じてしまいます。
                 現実にはATLASという「小惑星地球衝突最終警報システム」が稼働中であり、最近では、わずかな可能性ではありますが、2032年に地球に衝突する可能性のある「2024 YR4」という小惑星が見つかっています(現在地球への衝突可能性は、事実上0となり、月への衝突の可能性が約4.3%)。
                 また、移住先探しという事ではないと思いますが、第二の地球探索も進んでいます。恒星から適度な距離をもったハビタブルゾーン(生命居住可能領域)にある惑星を探査する試みにより、地球から約4光年先、プロキシマ・ケンタウリbという惑星や約40光年離れた水瓶座に位置するトラピストー1系惑星、124光年先の獅子座に位置する惑星K2-18など、多くの候補(約70個程)が認識されているそうです。今後、探査能力の向上によりさらに探索が加速され、生命の存在する星が見つかるかもしれませんし、更には、知的生命体との交流も夢ではないかもしれません(地球人よりはるかに平和を愛し、徳の高い種であることを望みますが…)。
【地球人に望むこと】
 人類のあくなき好奇心と最高の技術が投入されている宇宙開拓ではありますが、残念ながら一方では各国の覇権争いの様相を呈しているようにも感じます。
                 NASAの第一の有人宇宙飛行の打ち上げ施設となっているケネディ宇宙センターの入り口には、ケネディ大統領の一般演説での言葉が引用されている碑が建っており、そこには「世界が宇宙、月、そして遥かな惑星へとのぞむ今、私たちは宇宙が敵対的な征服の旗でなく、自由と平和の旗印によって統治されることを誓います」と記載されているそうです。
                 冷戦時代から進化できていない地球人が、「自由と平和の旗印」のもと、一致団結するには映画「インディペンデンス・デイ」のような宇宙からの侵略や「メテオ」のような地球規模の危機でもなければ成立しないのでしょうか?
                 夜、空を見上げると宇宙の広大さが私たちの小さな争いを無意味なものに思わせます。宇宙は私たちに、共通の目標・価値を持つことの重要性を教えてくれています。私たちがこの青く美しい惑星で共に生き残るためには、宇宙の視点から自らを見つめ直し、互いをリスペクトし、協力し合う道を選ぶべきではないでしょうか。
- JAXA、きぼうは国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構の登録商標です。
- 日本科学未来館は国立研究開発法人科学技術振興機構の登録商標です。
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