“もうええでしょ”、アルバイトは見た、引越しの修羅場!
~引越しは生活コンパクト化のチャンス?

執筆:役員室 上田 雅章

間もなく4月、新年度が始まります。
新しい生活のために引越しされる方もたくさんいらっしゃると思います。引越しで前の生活と新しい生活をどのように繋ぐか、またどのように刷新するか。刷新のためには前の生活で不要だったモノの整理、思い切った処分が重要です。
と言うことで今回は、引越しの際の“処分”のお話しです。

その昔、引越しは学生アルバイトの高収入ホワイト案件

最近は、怪しげな高額報酬アルバイトが話題となります。
私が学生であった1980年ごろ、運送会社の引越し応援は人気のスポットアルバイトでした。
当時アルバイトの一般的な時給は350~400円程度。一日8時間・3千円であれば良い方。そんな時代、引越し応援は一日5千円。土日が多く、集合は朝7時、8時ですが、早く片付けばお昼過ぎに終了。多くの場合、お茶代としてご祝儀を1千円程度、依頼主から頂ける魅力的なホワイト案件でした。

その時代、“らくらく○○○”のようなフルサービスの引越しは一般的ではなく、家具や大型家電は引越し業者が梱包するものの、段ボールに入れる家財、日用品は依頼主があらかじめ梱包。業者は運び出し、運送、引越し先では指定された部屋に段ボールを積み上げるスタイルが一般的。社員の運転手リーダーと助手、学生アルバイト1~2名がワンチーム。体は使いますが意外と楽でした。

引越しでは秘密が出てくる?

引越しでは依頼主の家庭のいろいろな事情が垣間見えることがあります。引越しバイトを始めたころ、「現場で見聞きしたことは他言無用」と言われたことがあります。ある引越しでこの言葉の意味を実感することとなりました。

段ボールへの箱詰めは事前に依頼主がやっておくことが前提ですが、引越し当日まだ梱包が終わっていないことも。このような場合、待っていては終わらないため、我々は依頼主にお手伝いを申し入れます。これはサービスにはなるのですが、場合によってはご祝儀が増えます。
ある日の引越し、奥の部屋でご主人がまだ段ボールと格闘しています。他の搬出は順調なのでご主人に、「お手伝いしましょうか」と声を掛けました。最初は、「ああ、大丈夫」とおっしゃりましたが終わりそうもなく、再度お声掛けすると、「家内には内緒ね」と言われ手伝うことに。引越し前の一週間、急な出張があり梱包が間に合わなくなったとのこと。 ご主人が箱詰めに奮闘されていたのは、“他言無用”なのですが、もう40年以上前の時効と言うことで…、それは大量のプラモデル。ご主人は部屋の隅っこで隠れるように背中を丸め、お世辞にも上手いとは言えない塗装を施された飛行機や車をボール紙で囲い、箱詰めしていたのです。
私、実家の商売の関係でこのあたりは詳しく、「へぇ~、偵察機彩雲じゃないですか、丁寧な塗装ですね」と一応褒めます。
するとご主人は、「君、知ってるの?!」と目を輝かせ、その第二次大戦中のレアな飛行機の塗装にいかに苦労したか、得意顔で説明しながら大事そうに梱包します。私はなぜ“内緒”なのか気にはなりましたがとにかく梱包を急ぎます。

引越し現場は修羅場に

すると突然ドアが開き、「ま~だ終わんないの?」と奥様が部屋に。そこから空気は一変。
「あ~っ、なぁに~このガラクタ、捨てるって約束したじゃない!」、「えぇ~、5箱もある! 捨てて、捨てて、運送屋さん、これは持っていかないから~!」まくし立てる奥様。ご主人は「捨てられなぃ…」、消え入るように声を重ねます。
奥様は、「この話何回したと思ってんの! 運送屋さん、トラックに載せないで!」と、段ボールを背に庇うご主人を睨み付け仁王立ち。
騒ぎを聞き駆け付けたリーダーに奥様は、「これ、ぜぇ~んぶ処分してぇ~」と1万円札を突き出します。リーダーは「まあまあ」とこれを押し返し、頭を掻きながら「まいったなぁ~」と奥様とご主人の顔を交互に見ます。
引越し準備でイライラも募っていたのでしょう、奥様は突然「捨てないんだったら別れるっ!」と言い放ちます。我々は唖然、ご主人は半分涙目。現場は修羅場、凍りつきます…。
すると、「もうええでしょ」リーダーが沈黙を破り、「お任せください」と奥様に頷きながら、我々には「さあ片付けよう」と指示。「えぇ~っ!」と絶句するご主人にはこっそり目配せ。
我々は梱包を急ぎ 、“処分”と7箱の段ボール(増えました)に書き込み、他の荷物とは分けてトラックに積み込みました。

引越し先でも“処分”の段ボール箱は降ろさず、他の荷物の搬入を終え午後3時には作業を完了。

引越しバイト代が倍増

奥様は、お騒がせしましたと破格のお茶代1万円に加え、プラモ処分代にともう1万円をリーダーに押し付けるように渡しました。
帰りのトラックの中で、リーダーからお茶代の等分2千5百円に加え、プラモの処分代「俺はいいから君らで分けろ」と助手4千円、2名のアルバイトそれぞれ3千円を追加でくれました。「リーダーはいいんですか?」と聞く助手に、「あのプラモの箱、来週ご主人が取りに来ることになった。処分しないのに俺が処分代もらうわけにいかんだろ。そっから先は、ご夫婦の問題。俺もこの仕事長いけど、まぁ、いろいろあるわなぁ。」と豪快に笑い飛ばしました。

こんないきさつで、この日の私のバイト代、当初の5千円に加え、ご祝儀2千5百円、プラモ騒動の3千円でなんと倍増してしまいました。
大手の運送会社や引越し専門会社では社内規定がいろいろあるでしょうが、地元密着のこの会社、そこらへんは緩かったのでしょう。丁寧な仕事と融通が利くところが評判の会社でした。
他の引越しでもややこしいものが出てきたりしてご家族が揉める例はありました。しかし修羅場を経てバイト代が倍増したのはこの時一回きりでした。

引越しの際の処分は、チャンスでピンチ

私も家庭を持ってから何回も引越しました。生活と共に家財は増え、引越しはどんどん大きくなります。
しかし、子供たちが成人して家を出てからの引越しでは、“要らないモノ”、“使わないモノ”は処分すると妻が宣言します。
私、自分のモノについては結構思い切った決断をし、かなり大胆に処分しました。
しかし、妻は自分の管轄に甘い。私から見れば?と思うモノが、“残す”側に置かれます。“要検討”に置かれたモノの大部分は、思案の末残ります。
「結局減らないじゃん」と思いつつも言い出せない私。
一方で妻は私がほんの少し残したモノを指差し、「これもう使ってないじゃない、捨てられるわね」と更なる処分を迫る。
わたしが「そんなこと言うけど、そっちのアレも…」と言おうものなら…。
そうです、引越しは生活コンパクト化のチャンスであり、一方で家庭の平和のピンチにもなる。これが私が学生時代の引越しアルバイトから得た教訓です。

引越しの先には夢がある、しかしくれぐれもプロセスはお大事に…。

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