海外歴史小説で、世界のメンタリティーに迫る
~21世紀の世界を崩壊させないために

執筆:役員室 上田 雅章

2025年、21世紀が四半世紀も進んだにもかかわらず、世界は混乱と先を見通せない不安の最中にあります。
人の記憶に残り、様々な記録が残るこの百数十年間だけを見ても、人類は二度の世界大戦、その後の東西冷戦、多くの地域・民族紛争を引き起こし、そして近年でも東欧、中東で新たな争いを生み出しています。これほど多くの悲劇を経験してきたにもかかわらず、世界は未だ平和になれません。

人は歴史を学ぶが、人は集団で歴史を繰り返す

繰り返してほしくない歴史が、なぜ繰り返されるのでしょうか。
人は歴史を学びます。過去の諍いの経緯や引き起こされた過ちを学び、悲劇を繰り返してはならないと誓います。個人のエゴイズム、反社会的行為は、理性や法をもとに社会が修正・矯正しようとします。
しかし、人は集団になると歴史を忘れ、集団のエゴイズムは自制を失い暴走し、その結果、負の歴史が繰り返される。

21世紀の今に起こる諍いや争い、これらは全く新たな要因により引き起こされるのではなく、これが起こる地域の歴史的事情、これに関係する人の集団に内在する意識が遠因となり発火するのではと考えます。
であるとすれば、今まさに世界で起きている出来事の遠因を理解し、未来を崩壊させるような過ちを避けるために、世界のそれぞれの地域でそこに暮らす人々が今に至った時間的道筋をなぞり、人々のメンタリティーを理解することが有用ではないでしょうか。

異国・異文化の人々のメンタリティーを歴史小説から学ぶ

我々が過去の彼の地に生き暮らすことはできませんが、海外の歴史小説を読むことでその地に今生きる人々の行動や思考の基となる価値観、歴史観に迫ることができるのではないかと考えます。
小説は作家の主観が入った創作です。しかしそこに描かれる近代の歴史は、書く人、読む人の記憶に新しく、記録も多く、根本的な誤謬は訂正されていると考えられます。特に、その土地に生まれ、暮らし、現地のことをよく知る人が書いた当地の歴史小説は、その地の歴史を刻むその地の人々のメンタリティーをかなり正確に描写しているのではと考えます。

近代の出来事を対象とした歴史小説は多々ありますが、今回ご紹介するのは、時代と空間を見渡すおすすめの二編。
二つとも大長編ですが、それぞれ稀代のストーリーテラーが、青春・恋愛・冒険など大衆小説の全ての要素を組み込んでおり、読みだすとあっという間にページが進みます。

近代の欧米の人の綾を辿る百年物語

一つは、イギリスの世界的人気作家”ケン・フォレット”の「百年三部作」シリーズ、『巨人たちの落日(上中下)』、『凍てつく世界(ⅠⅡⅢⅣ)』、『永遠の始まり(ⅠⅡⅢⅣ)』。文庫本で全11冊となる長編です。
欧州各国と米国の近代、第一次大戦前夜(1910年ころ)からベルリンの壁崩壊(1989年)、エピローグとして2008年の米国オバマ大統領就任までが描かれます。ヨーロッパの各国、アメリカにルーツを持つ複数の家族の三世代を、糸のように絡めた100年間の物語です。

イギリスの炭鉱に生まれた姉弟、この地の領主である伯爵家の兄妹、ドイツやアメリカの外交官、革命に翻弄されるロシア人の兄とアメリカへの移民を試みる弟。彼らとその子・孫たちが交差しながら、我々が歴史の教科書で知っていた事件や出来事、実在の人物と絡みながら近代を生き抜きます。第一次大戦とロシア革命、女性参政権運動、ファシズムと第二次大戦、東西冷戦、ベトナム戦争、黒人解放運動(公民権運動)、そしてベルリンの壁の崩壊までが、欧米を舞台としたひと続きの物語として納められています。

我々日本人にとって欧州各国や米国は、漠然とそれぞれの国ですが、陸続き、人続きの欧米には、連動・呼応するメンタリティーと個別のアイデンティティがあることが物語を通して実感できます。今、欧州で起こる様々な出来事の背景、遠因を探る意味でも、この小説で欧米に生まれ暮らす人たちが織りなす綾、歴史感、地政感に触れることをお勧めします。

中国の大地と大人口を理解する三部作

もう一つは、ノーベル賞作家、“パール・バック”の『大地』三部作。文庫本では4冊、『第一部 大地(1)』、『第二部 息子たち(2,3)』、『第三部 分裂せる家(4)』。
たいへん有名な小説で読まれた方もいらっしゃるかもしれませんが、今この時代に再読することをお勧めします。
『大地』の舞台は中国。19世紀末の清朝末期から辛亥革命を経て、政治体制がまだまだ混乱していた1930年ころまでのおおよそ50年間。

貧しい農民が飢饉で農地を残し故郷を去る。大都市で極貧生活をするも革命の混乱の中で幸運にも大金を手に入れる。故郷に戻り農地を増やし裕福にはなるものの、その子・孫たちがさらなる時代と社会の変化に翻弄されます。
“禍福は糾える縄の如し”と言いますが、災難と幸運の狭間で一族が興隆するという点ではよくある大河物語です。一方この物語の底流にあるのは、この国では“広大な土地”をいかに収め、そこに暮らす“人の海”をいかに治めるか、これが統治の根本であろうという感慨です。

パール・バックはアメリカ人ですが、両親がキリスト教の宣教師で、生後数か月で中国に渡り、英語よりも先に中国語を覚え、中国の地方都市で中国人に囲まれて育ちました。本人自身が、「生まれと祖先に関して私は米国人だが、同情と感覚において私は中国人だ」と語っていたそうです。
中国人の感覚を持つアメリカ人が、20世紀初頭、米国ではまだまだ理解の浅かった極東の大国、中国の人、生活、社会を英語の物語で展開し、ベストセラーとなりました。時代が進み現代の中国があるわけですが、いま改めて読み直してみると、この歴史ある大国の諸事の根底に広大な土地と膨大な人口があることを俯瞰できます。

海外小説はお酒の宝庫

私、海外の翻訳小説全般が好きでよく読みます。そして海外小説には珍しいお酒がいろいろ出てきます。
港のパブで港湾労働者が呷ったポータービール、下町のダイナーで主人公の小説家が地元のゴロツキと飲み比べ勝負をしたフローズンダイキリ。海外小説には初めて聞くお酒、珍しいカクテル、変わった飲み方が登場します。
そんな数々のお酒が飲めるところを近場で探し出すのも楽しみです。

世界はお酒にあふれています。いつかは海外小説の舞台の地を訪ね、現地の人とその地のお酒を酌み交わす。そんな平和な酒飲みの集団にならなってもいいかなと思います。

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