シリコンバレーだより9
政府停滞と技術革新、そして全米各地で見た未来

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2025年12月04日

ITリサーチオフィス(以下ITRと呼ぶ)は、2005年10月に米国最新技術動向を調査することを目的として、米国カリフォルニア州シリコンバレー地区に設立されました。その後20年以上にわたりシリコンバレーにオフィスを構え、米国技術動向の調査を行っております。
シリコンバレーのオフィスは、三菱電機のイノベーションチームと共に15名程度が在籍し、ITRは、現在2名体制で調査活動を実施しております。
主なテーマはITインフラに関わる技術動向で、クラウドやセキュリティー、ネットワークなど多岐にわたる領域を対象としており、最近ではAI活用の調査も行っております。

米国近況

米国では、政府機関の長期閉鎖が続いています。2026年度予算が成立せず、連邦政府の一部機能が停止したまま、すでに1か月以上が経過しました。過去にも政府閉鎖はありましたが、今回の特徴は「長期化」と「構造的な支出抑制政策への転換」です。単なる一時的な機能停止ではなく、政府支出を恒久的に抑える方向に政策がシフトしつつあります。

この政治的停滞は、航空や観光、IT業界に広範な影響を及ぼしています。一方で、技術革新は止まることなく進み、特にAI分野ではネットワーク、セキュリティー、クラウド、そしてUIのあり方まで大きな変化が起きています。さらに、最近訪れたテキサス州オースティンでは、モビリティとスタートアップ文化の進化を肌で感じました。本稿では、これらの動向を現場視点でお伝えします。

政府閉鎖の現実:航空遅延と経済影響

今回の閉鎖で最も実感したのは、航空業界への影響です。航空管制官の人員不足により、主要空港で遅延や欠航が頻発。サンフランシスコ国際空港(SFO)では、ピーク時に30分以上の遅延が常態化しています。さらに、TSA(運輸保安局)の職員も一部が無給休職となり、セキュリティーチェックの待ち時間が倍増。ビジネス渡航者にとっては、スケジュール調整が難しい状況です。

経済面では、連邦政府のIT調達や契約更新が停止し、クラウドサービスやサイバーセキュリティー関連のプロジェクトが遅延。さらに、労働統計やGDPなどの経済指標が発表されないため、企業の意思決定や投資判断に不透明感が広がっています。IPOやM&Aにも影響があり、SEC(証券取引委員会)の業務縮小で、新規上場や暗号資産関連の承認が滞り、スタートアップの資金調達が難航しています。

オースティンで見た未来:自動運転車と自動配送ロボット

そんな中、私は最近テキサス州オースティンに出張しました。オースティンは、近年スタートアップの集積地として注目されており、街中ではWaymo(Uber経由)の自動運転車やAvrideの自動配送ロボットが稼働していました。小型の6輪ロボットがUber Eatsの注文を届ける様子は、まさに「未来のラストマイル物流」です。

興味深かったのは、Uberの運転手との会話です。彼はベイエリア出身で、「オースティンは運転が荒いけど、物価はカリフォルニアよりずっと安い」と話していました。実際、ガソリン代は1ガロンあたり約2.5ドルで、ベイエリアの半分程度。これは州ごとの税制や政策の違いを象徴する例です。米国では州の自治権が強く、ガソリン税や外食税などが州ごとに異なるため、生活コストや企業の拠点戦略に大きな影響を与えます。こうした分散型の仕組みは、日本の中央集権的な制度との大きな違いです。

シリコンバレーとの比較では、オースティンは「実業志向」が強い印象です。ロボティクス、防衛テック、AIを活用した業界特化型サービスなど、現場課題を解決するプロダクトが多い。一方、シリコンバレーでは生成AIやクラウドネイティブなサービスが中心で、グローバルスケールを前提にしたビジネスモデルが目立ちます。

そして、シリコンバレーでは次のモビリティ革命としてエアタクシー(eVTOL)も注目されています。Archer Aviationは、2026年にサンフランシスコ・ベイエリアでエアタクシーサービスを開始する計画を発表。都市間移動を数分で実現するこの技術は、ロボタクシーの次に来る「空の移動革命」として期待されています。

AI動向:ネットワーク・セキュリティー・クラウドの最前線

政治の停滞とは対照的に、AI分野は加速を続けています。特にネットワーク、セキュリティー、クラウドの領域で革新が進んでいます。

①ネットワーク:AIによる自律最適化
クラウド事業者や通信キャリアは、AIを活用したネットワーク自律運用(AIOps)を本格導入。トラフィック予測や障害検知をAIがリアルタイムで行い、従来の人手による運用から大きくシフトしています。5G/6Gの普及に伴い、ネットワークの複雑性は増す一方ですが、AIが「自己修復型ネットワーク」を実現しつつあります。

②セキュリティー:ゼロトラスト+生成AI
サイバー攻撃は高度化し、政府閉鎖による監視体制の弱体化も懸念される中、企業はゼロトラストモデルを強化。さらに、生成AIを活用した脅威検知が注目されています。AIが膨大なログを解析し、異常パターンを即座に検出することで、従来のシグネチャベース防御を超える精度を実現。クラウド環境では、AIによる「動的ポリシー適用」が標準化しつつあります。

③クラウド:AIネイティブ時代へ
AWS、Azure、Google Cloudは、AIネイティブなクラウドサービスを次々と投入。特に「AIモデルの分散推論」「セキュアなマルチクラウド連携」がキーワードです。企業はオンプレからクラウドへの移行を加速し、AIを前提としたアーキテクチャ設計が主流になっています。さらに、AIによるコスト最適化(リソース自動スケーリング)も進み、クラウド利用のROI向上が期待されています。

UI革命:会話型AIが操作を変える

さらに注目すべきは、会話型AIによるUIの再定義です。従来のアプリやWebのUIは、ボタンやフォームを前提に設計されてきました。しかし、ChatGPTやClaudeなどの高度な会話型AIの登場により、ユーザーは「自然言語で操作する」ことが当たり前になりつつあります。例えば、クラウド管理やネットワーク設定も、専門的なUIを使わず「AIに指示する」だけで完了する未来が近づいています。AWSやAzureは、AIエージェントを組み込んだ管理コンソールを試験導入中。セキュリティー分野でも、AIがログ解析やポリシー適用を自動化し、管理者は「対話」でシステムを制御する時代が到来しています。

この変化は、単なる利便性向上にとどまりません。UI設計の概念そのものが変わり、アプリ開発の競争軸が「どれだけ自然な対話を実現できるか」にシフトしています。シリコンバレーでは「UIは消える」という言葉が現実味を帯びてきました。

まとめ:政治リスクと技術革新の交錯

オースティンで見たモビリティの進化、シリコンバレーで進む会話型AIの潮流、そして政府閉鎖による現実的な不便。この三つは、今の米国を象徴するトピックです。さらに、州ごとの税制や政策差が生活コストや企業戦略に影響を与える点も、日本との大きな違いです。

日本企業にとっても、この潮流は無視できません。コスト構造の変化を踏まえた拠点戦略と、会話型AIを活用した業務効率化。そして、次世代モビリティへの備え。この三つをどう組み合わせるかが、2026年に向けた競争力の鍵になるでしょう。

  • WaymoはWaymo LLCの登録商標です。
  • Uber Eatsはウーバー テクノロジーズ,インコーポレイテッドの登録商標です。
  • ClaudeはAnthropic, PBCの登録商標です。

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